人権配慮、取引先も 味の素やANA、NGOとタッグ
SDGs意識高まる
味の素など日本企業が原材料の調達先から業務の委託先まで「人権」に配慮するサプライチェーンづくりを急いでいる。非政府組織(NGO)など外部の専門家と組み、自社では把握しづらい取引先の労働実態などの情報を集め、早期に改善できるようにする。人権配慮のサプライチェーンは国連の指針に沿って国も行動計画づくりに乗り出している。
グローバル企業に人権配慮を求める要求は強まっている。国連や経済協力開発機構(OECD)が企業に対し、サプライチェーン全体で人権、環境を守る行動を求める指針を打ち出したのがきっかけだ。取引先の現状は自社だけではチェックしきれないことが多く、人権NGOなどの助力を得るケースが増えている。
味の素は取引先を含めて人権を守るためのグループ方針を定め、複数の段階でデューデリジェンス(精査)をかけている。まず国別に影響を調べ、リスクが高そうな地域を特定。人権問題を専門とするNGOとともにタイでは、取引先の冷凍鶏肉を扱う工場などを調査した。
現地の業界団体やNGOにも聞き取り調査し、カンボジアやミャンマーから流入している移民の労働環境も調べた。取引先の企業はNGOがスマートフォンなどを通じて移民労働者から生活相談を受ける仕組みを活用していた。味の素はこの仕組みを広げられないか探っており、「労働者の生の声を聞く体制づくりの参考にしたい」という。
東南アジアを中心にパーム油を多く調達する国内最大手の不二製油グループ本社も、本社に海外の労働者からの苦情を受け付ける窓口を設けた。労働者の実態は現地の調達先の企業から聞き取るだけでは把握しづらい。パーム農園や搾油所で働く労働者の問題について、人権NGOや労働者などからメールや電話、手紙などで苦情を受け付けている。
ANAホールディングスは、主に機内食サービスを対象にサプライチェーンのチェックを強化している。米NPOのブルーナンバー財団と組み、国内外で関わった生産者、個人や組織が追跡できるようにした。
日本の空港で清掃や荷物運搬、機内食サービスの委託先で働く外国人労働者にもインタビューを実施。労働環境が適切かどうかを調べている。
企業が対応を急ぐ背景には、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)への関心が広がったことがある。消費者による監視も強くなってきた。取引先で起きた問題への対応が遅れ、SNS(交流サイト)などで悪評が広がれば、不買運動が起きたり企業イメージを損ねたりするリスクが大きくなっている。
2017年には著名ファッションブランドを運営する会社が縫製を委託していた工場で、中国人技能実習生が違法な長時間労働を強いられていたことなどが報じられ、ネット上で不買運動を呼びかける声が上がった。
SDGsに沿った活動に取り組むグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンと弁護士らは2日、企業が社内外から人権に関わる情報を集め、解決する手引の素案を公表した。高橋大祐弁護士は「リスクをゼロにするのは難しいが、早期に解決を図る体制づくりが企業価値の向上につながる」と話している。