南ア猛烈、12年ぶり戴冠 スクラム圧倒、反則誘う
後半、スクラムで押す南アのFW陣
ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会最終日は2日、横浜国際総合競技場で決勝を行い、南アフリカがイングランドを32-12で破り、2007年以来3大会ぶりの世界一に輝いた。優勝3度はニュージーランドに並んで最多。
南アフリカは1次リーグ初戦でニュージーランドに敗れており、黒星を喫したチームの優勝は第9回の今大会で初めて。初の8強入りを果たした日本を準々決勝で退け、準決勝はウェールズに競り勝つなど立ち直った。
07年大会決勝と同じ顔合わせ。FW戦で優位に立った南アフリカがSOポラードの4PGで前半を12-6で折り返し、後半はマピンピ、コルビの両WTBのトライなどで突き放した。イングランドは03年以来2度目の頂点に届かず、フランスに並んで最多3度目の準優勝に終わった。対戦成績は南アの26勝15敗2分け、W杯では4勝1敗となった。
大会得点王に69得点のポラードが輝き、ウェールズのWTBアダムズが7トライでトライ王となった。
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ノーサイドの笛が鳴ると、南アのムタワリラがスキップを踏んでピッチを行進する。両腕はダンスのリズム。この巨漢プロップは試合中も派手に躍動。持ち場のスクラムで試合の流れを決めた。
前半のスクラムは全てムタワリラのいる左から崩した。組み合った瞬間にプッシュ。対面した選手の膝が伸び、腰が落ち、力の出ない姿勢にさせると一気に押す。スクラムで得た反則は異例の6度。そのままPGや陣地獲得のキックにつなげた。「セットプレーが大事だと分かっていた」とムタワリラ。やろうとしてもなかなかできはしない。34歳の経験値と衰えぬバネ、そして、集団としてのこだわりもあったから押せたのだろう。
近年の南アはボールを動かすスタイルに傾いていた。2018年に就任したエラスムス監督が目指したのは伝統回帰。スクラムのような重さと強さを生かしたプレーだ。
今大会はそのための起用法も貫いた。強みのFWを控えに多く置き、出場時間をやりくりして全員の調子を維持する。「スクラムが良かったのは我々の方が元気な選手が多かったからでは」と監督。相手は開始直後のけが人が痛手となったが、南アは前半で2人が退いても大過はなかった。
後半には流れの中でモールを組み、反則からPGにつなげた。高校ラグビーくらいでしかお目に掛かれぬ力業を準備して使ったところも、このチームらしさ。日本戦と同様のグレーゾーンのプレーもあった。相手のSOフォードらがパスした瞬間、反則気味にタックル。次のプレーを遅らせ、心理的な打撃も与えた。相手は司令塔のミスもあって攻撃が不発だった。
3度目の優勝は、いまだ人種問題を抱える国に新たな意味がある。チームを率いるコリシは初めての黒人主将。ムタワリラらの有色人種も過去最多の10人強だった。「南アでは政治的なことや殺人事件などがある。ラグビーを見せることで80分間は皆さんに幸福をもたらしたいと思ってやってきた」と監督は言う。
優勝のメダルを受け取ると、コリシ、ムタワリラらに、白人の監督がシャンパンを掛けて真っ先にじゃれ合い、抱き合った。過去の優勝にも増して、「虹の国」らしい光景だった。
(谷口誠氏)