長期政権の緩み深刻 1週間で2閣僚辞任 人選段階で懸念の声
河井克行法相が31日、辞任した。菅原一秀前経済産業相に続き、1週間で閣僚2人が交代する異例の事態だ。他の閣僚の失言も相次いでおり政府・与党では「辞任ドミノ」への警戒が続く。9月の内閣改造は閣僚選びの段階から緊張感に欠ける面があった。長期政権の弛緩(しかん)は深刻だ。
安倍晋三首相は31日朝、首相官邸で河井前法相から辞表を受け取ると、すぐに森雅子氏を呼んで後任に任命すると伝えた。この後、記者団には「任命したのは私だ。責任を痛感している。厳しい批判があることは真摯に受け止めなければならない」と述べた。午前中のうちに皇居での森氏の認証式まで終えた。
河井氏の疑惑は同日発売の週刊文春が報じた。河井氏の妻、案里参院議員の選挙での運動員への法定上限を超す日当の支払いや、選挙区内での贈答品配布の疑惑だ。辞任によるスピード決着は25日の菅原氏と同じで、野党に国会で追及する場を与えなかった。政権へのダメージを最小限に抑える狙いだった。
しかし、わずか1週間というペースで閣僚が連続辞任するのは異例だ。第1次政権では4閣僚が辞任して政権の体力が奪われ、1年程度で退陣した。そのときですら閣僚の辞任には7カ月と1カ月ずつの間隔があった。
14年には当時の小渕優子経産相と松島みどり法相が同じ日に辞任した。首相はその後、衆院解散・総選挙に踏み切り、政権の求心力を高めた。
河井法相の辞任について頭を下げる安倍首相(31日、首相官邸)
今回は新閣僚を選ぶ段階からその質を懸念する声があった。9月の内閣改造では長期政権であるがゆえの「慣れ」が出た。
初入閣は13人に上り、12年12月の第2次安倍内閣発足後で最多だった。河井、菅原両氏も初入閣組で、菅義偉官房長官と近い。「ポスト安倍」候補の菅氏や岸田文雄政調会長、首相を支える麻生太郎副総理・財務相と二階俊博幹事長の希望に配慮した人事が目立った。野党からは「突っ込みどころ満載の内閣だ」との指摘が出ていた。
河井、菅原両氏は必ずしも野党側が改造人事で疑問視していた閣僚ではない。現在、野党が照準を定める閣僚もそうだ。萩生田光一文部科学相は20年度から大学入学共通テストに導入する英語民間試験をめぐる「身の丈」発言を陳謝し、撤回した。野党は辞任を要求している。
河野太郎防衛相は「私はよく雨男と言われた。防衛相になってからすでに台風は3つ」と述べ、陳謝した。
第1次政権を含めた首相の通算在職日数は11月19日、戦前の桂太郎の2886日に並んで憲政史上最長になる。野党は国会で共同会派を組んだとはいえ、政権を脅かす存在になっていない。与党内でも「ポスト安倍」候補が次の首相を目指してしのぎを削るような状況にまで至っていない。菅原氏の辞任直後に日本経済新聞が実施した世論調査では内閣支持率は57%と横ばいだった。
それでも首相の悲願である憲法改正に向けた国会論議などへの影響は避けられない。公明党の北側一雄副代表は31日の記者会見で、相次ぐ閣僚の辞任について「当然、首相の任命責任はある」と苦言を呈した。