温暖化、さらに加速か 予測に使う「気候感度」見直し
CO2削減前倒しに切迫感
国連本部で23日、開かれた気候行動サミットでは欧州などの複数の国が温暖化ガス削減目標の引き上げを表明した。しかし、最新の研究では温暖化のペースがこれまでの想定よりも速い可能性が出てきた。事実なら国際枠組み「パリ協定」の目標達成は遠のき、各国は一層の削減を迫られる。
パリ協定は21世紀末にかけての地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満とし、さらに1.5度以下をめざす目標を掲げる。最近は熱波や豪雨、洪水などの被害を減らすため、「1.5度目標」がより重視されるようになってきた。
そうしたなか、温暖化予測の様々な計算の基本になり、対策を左右する「気候感度」という数値の「見直し」が進む。この数値は大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が倍増すると地球の平均気温が何度上がるかを示す。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2013年、第5次評価報告書(統合報告書は14年)で気候感度を1.5~4.5度とした。関係者の話や科学誌の分析を総合すると21年に出る第6次で気候感度の上限は5度以上となり、最適値は3~4度の間に入りそうだ。
1.5度目標達成には、多くの国がめざす「50年に世界の温暖化ガス排出が実質ゼロ」では不十分になり、もっと早く減らす必要が出てくる。
気候感度は07年の第4次報告書では2~4.5度とされた。第5次で下限値が下がったため「温暖化はこれまで誇張されていたのではないか」との声も出て、温暖化懐疑派が勢いづいた。これだけ重要な数値がなぜ曖昧なのか。
IPCC報告書の土台となる研究は日米欧などの研究機関がスーパーコンピューターを駆使して進めている。世界気象機関などによる「統合モデル相互比較計画」(CMIP)で、共通ルールで計算・集約してきた。
気候感度に幅があるのは、計算結果にばらつきがあるからだ。突き詰めると温暖化のメカニズムが理解しきれていない。「計算モデルのある部分を改めると、別の部分のずれが大きくなってしまう」と東京大学の渡部雅浩教授は説明する。
大気汚染物質などの微粒子(エーロゾル)の影響は特に計算が難しいとされる。上空で雲の生成に必要な「核」となるが、どこでどんな種類の雲ができるかによって太陽光反射が異なる。
火山噴火、森林火災などで発生する大量のすすも無視できない。雪や氷を覆うと太陽光の反射が減り熱の吸収が増える。その効果を、ある程度正確に計算できるようになったのは最近のことだ。
このほか、気温を左右する海水温は太古の昔から自然変動する。人間活動に伴う変動と切り分けるのは容易ではない。
今後も新知見が得られるたびに、温暖化予測は修正されるだろう。結果は「対策コストに直結する」(筑波大学の田中博教授)だけに経済的、社会的影響は重大だ。不確かさがつきまとうのを前提に、温暖化がもたらしうる損失と対策コストをてんびんにかけ、費用対効果が最大になる解をみつけていくしかない。