食生活見直し温暖化防ぐ IPCCが特別報告書 肉より穀物選ぶ/食品ロス減らす
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月、土地の利用状況と気候変動に関する特別報告書を公表した。温暖化が進めば食料供給のリスクが高まり、2050年に穀物価格が最大23%上昇する恐れがあると指摘。食料の生産から輸送、消費までの一連の工程から出る温暖化ガスは、人の活動による排出量の最大4割弱を占めると推定した。食品ロスの削減など食生活を変えることが温暖化対策で重要なことを示した。
今回の特別報告書はスイス・ジュネーブでのIPCC総会で採択された。16年4月に土地利用と温暖化の関係という大きなテーマで作成が決まった。日本を含む52カ国100人以上の専門家が集まり、砂漠化や食料の安全保障、生物多様性など分野横断的に議論し最新の予測をまとめた。
報告書は、産業革命以降の陸地の気温上昇幅が世界の平均気温の2倍近いと指摘し、温暖化の影響が陸地で大きいことを明らかにした。気温上昇に伴う豪雨や熱波などの極端な気象現象は、食料の安全保障や陸地の生態系に悪影響を及ぼし、砂漠化が進行する原因になると指摘した。
加工・流通まで考慮
特徴は気候変動と食料供給システムの関係に焦点をあてたことだ。世界の排出量のうち食料供給システムが21~37%を占めるとした。生産だけでなく加工や流通、調理や消費に至る一連の活動を考慮した。流通の国際化や途上国の経済発展による肉の消費量の増加が数字を押し上げた。国立環境研究所の地球環境研究センター長の三枝信子さんは「温暖化問題の科学者の間でもあまり知られていなかった事実」と意義を話す。
見逃せないのが食品ロスの影響だ。報告書では10~16年に世界で生産された食料の25~30%が廃棄され、これに伴う温暖化ガスの排出量は全体の8~10%を占めるとした。廃棄には処分場への輸送や焼却のエネルギーがかかる。食品ロスの多い先進国に責任があることを示唆した。
報告書は肉よりも米やトウモロコシなどの穀物を多く取る食生活に変えることで、温暖化ガスを年0.7~8ギガ(ギガは10億)トン削減できるとした。畜産は飼料の製造・輸送、食肉加工などにもエネルギーを使う。家畜の排せつ物などはメタンの排出源となる。一方、穀物は栽培時にはCO2を吸収し、生産に必要なエネルギーも少ないためだ。
異常気象もリスク
極端な気象変動による豪雨や洪水、熱波といった災害の増加が、食料供給に与えるリスクの大きさも指摘した。試算では、穀物価格は50年に中央値で7.6%、最大で23%上昇するとした。IPCCで使ってきた社会経済の将来予測のシナリオをもとに試算したという。
農業経済学が専門の東京大学教授の鈴木宣弘さんは「算出過程がよく分からないところもあるが、この上昇幅自体が特別大きな問題とは感じない」としながら「極端な気象がもたらす災害リスクは高まっており、投機マネーや一時的な輸出規制で価格が急騰しやすい経済環境になっている」と話す。
温暖化には、これまで寒くて不適な土地で農作などが可能になる側面もある。温暖化で食料生産がどう増減するかは研究者の間でも議論がある。報告書では「気候変動や砂漠化は農作物や畜産の生産性を減らす」「砂漠化を回避できれば農業生産性や食料安全保障に便益をもたらす」などとしたが、収量の予測は確実性が低いとした。
IPCCは21年にこれまでの研究成果をまとめた評価報告書を公表する予定で、その準備として3つの特別報告書を作る計画だ。1つ目は18年10月公表の「1.5度特別報告書」で、40年ごろに気温上昇が産業革命前より1.5度に達した際の影響をまとめた。今回は2つ目にあたる。さらに3つ目として、19年9月下旬には海洋と雪氷圏についての特別報告書を作る。
20年に適用が始まる温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇を可能な限り1.5度以内に抑える目標を掲げる。国立環境研、主席研究員の山形与志樹さんは「農業の生産性向上と食の低炭素化も実現しなければ1.5度目標の達成は難しい」と指摘する。
今回の報告書は、私たちの普段の食生活の見直しで貢献できることを伝えた。どう受け止めるかは私たち次第だ。
(安倍大資)