SDGsにビジネス機会 SmartTimes インターウォーズ社長 吉井信隆氏
「小布施松川小水力発電所」に、全国の市町村から視察に訪れる人々が絶えない。昨年11月に稼働した長野県小布施町初の小水力発電所だ。東日本大震災の翌年である2012年に小布施町エネルギー会議で「地域の資源を生かし、安心して暮らせる自然エネルギーを自分達で作りたい」との議論から、地産地消の電力会社設立に向けて調査がスタートした。
地域の環境や景観を守り、ローコストで持続可能な電力を求めてバイオマスや太陽光、水力、風力など様々な可能性を調査した結果、川の水源を利用する小水力発電にたどり着いた。
しかし日本には品質とコストに見合う小水力発電用水車と技術がなく、小水力発電所の開発は困難を極めた。開発チームは世界中から情報を集め、現地に出向いて調査した。
その結果、オーストリア企業のフランシス型水車が条件を満たしていることを知る。
同社との交渉は自然エネルギーのスタートアップ企業である自然電力が担った。そしてオーストリア企業に事業パートナーになってもらうことに成功し、自然電力が100%出資して「長野自然電力合同会社」を設立。小布施松川小水力発電所が完工した。
この発電所は小布施町に流れる松川の水源を活用した発電で、約190キロワット(町の10%の世帯に電力を供給できる発電出力量)がある。この地産地消の電気を住民に供給する「ながの電力株式会社」を自然電力、北信地域のケーブルテレビ会社Goolight、小布施町で設立した。
6月に軽井沢プリンスホテルで開催されたG20の会場には、ながの電力が二酸化炭素(CO2)フリーの電力を一部供給し、小布施町の小水力発電は地方創生のモデルケースとして注目された。7月には「長野県SDGs推進企業」に、ながの電力が登録された。
世界では今、SDGsの実現に向けた取り組みが進んでいる。SDGsとは15年の国連サミットで150を超える加盟国首脳が参加して採択された「持続可能な開発目標」のことだ。未来の地球のために達成すべき17のゴールが設定され、世界全体の社会課題が網羅されている。
世界的に加速する環境問題や社会課題を解決し、持続可能な社会を推進するためには国や国際機関だけでなく、影響力を拡大している「企業」が重要であることが示された。
17年の世界経済フォーラムでは「SDGsの達成により、30年までに世界で年間12兆ドルの経済価値が生まれる」と発表された。日本は「課題先進国」であり、人口減少や脱炭素社会へのエネルギー戦略を始めとした問題が山積している。新規事業開発の要は「不」の解消にある。SDGsに関わる事業開発は、世界の人々の「不」を解消する巨大なビジネスチャンスだ。
[日経産業新聞2019年8月21日付]