フィリピン、廃プラ削減へ強硬 ごみ「3ヵ月輸入禁止」措置 世界企業に対策迫る
【マニラ=遠藤淳】先進国が東南アジアなどに、押しつけている実態が明らかになったプラスチックのごみ問題を巡り、フィリピンが是正に向け大きな声を上げている。8月にはごみの輸入を3カ月禁止すると表明し、カナダからのごみついては送り返す措置も取った。経済成長の続く東南アジアには食品など外資大手の参入も多い。もはや売るだけでは社会的責任を果たせないムードが強まる。ごみ処理対策に乗り出すなど、ようやく重い腰を上げ始めている。
フィリピン・マニラの首都圏にあるパラニャーケ市――。ここで今、新設されたばかりのごみ処理施設が稼働を間近に控え、準備作業が着々と進んでいる。同施設ではプラスチックごみを細かく粉砕し、成形する設備が据え付けられ、道路の歩道用ブロックなどとして再利用する取り組みが始まる。設備の投資額は2500万ペソ(約5千万円)。現在は収集したごみを市の職員が分別し、稼働に備えている状況だ。
同プロジェクトを主導するのは行政ではなく、外資大手の民間企業。スイスのネスレや米コカ・コーラ、英蘭ユニリーバなど食品・消費財大手でつくる非営利組織「リサイクルと原材料持続性のためのフィリピン連盟(PARMS)」だ。
同施設ではプラごみの処理量は1日1トンを想定する。これはシャンプーやインスタントコーヒーなど、1回分の使用量が入ったプラ包装で約40万袋強に相当する。フィリピンではこうした小分けのプラ包装での販売が一般的で年間600億袋が市場に出回るとされる。
ただ、再生処理には大量の電気を使用する。そのためプラごみ製の道路用ブロックを作るには、通常のコンクリート製のブロックよりも製造コストが約14%も高い。当面、顧客は環境意識の高いインフラ・建設企業などを想定しているが、現状ではまだ採算を取るのは容易ではない。そのためPARMS責任者のパオロ・ゴンザレス氏は「他の都市にも再生事業の規模を広げ、利益の出る事業にしたい」と話す。
プラごみを巡っては、中国が18年に環境保全の観点から輸入ごみを原則禁止したことに端を発し、大きく注目されるようになった。行き場を失った先進国のごみが東南アジアに大量流入したためだ。フィリピンの18年のプラごみの輸入量は約1万1800トンと、16年比で2.5倍にも増えた。
世界では年間約800万トン以上ものプラスチックごみが海に流れ込んでいるが、流出量は中国がトップ。上位10カ国のうち5カ国を東南アジアが占める状況にあるが、東南アジアからすれば、その責任はごみを押しつけてくる先進国にもあるというのが言い分だ。
特にフィリピンは最近、強硬姿勢を見せる。
「引き取らないなら、カナダとは戦争だ」「我が国はごみ捨て場ではない」――。
ドゥテルテ大統領は4月、カナダ企業がフィリピンで長年放置していた不法ごみに怒りを爆発させた。駐カナダ大使を召還し、カナダ政府はごみを引き取る事態にまで発展している。こうした流れを受け、環境天然資源省は8月、海外からのごみの輸入を3カ月間にわたって禁止する方針を表明した。同省幹部は「産業界とごみ輸入政策を真剣に考えたい」と話し、企業に適切な処理を求める姿勢を鮮明にした。
特に今、フィリピンではプラ包装を扱う企業に向けられる視線は厳しい。非政府組織(NGO)の「焼却炉代替のための世界連盟」は、フィリピンの包装プラごみの6割強をネスレやユニリーバ、米日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など外資中心の10社の商品が占めると発表し、使い捨てプラに頼る大手企業の売り方を痛烈に批判した。
環境や社会などに配慮している企業を重視し、選別して投資を行なうESG投資も広がりをみせるなか、手をこまぬいていては企業は生き残れなくなりつつある。
企業主導の取り組みはようやく、他の東南アジアでもうねりになりつつある。米ダウや独BASFなど化学大手を中心とする約40社は1月、非営利団体「廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス」を設立した。8月にはタイ・バンコクでの会合で、東南アジアを中心に今後5年間で10億ドル(1070億円)を投資すると表明。今後、廃棄物の管理体制を整備したり、廃プラ回収に必要なインフラに投資を充てる計画だという。
「東南アジアで集中的に取り組みを強化し、その成果を、今後は世界に広めていきたい」。同アライアンスのメンバーである仏水処理大手のスエズ・エンバイロメントの幹部はこう話した。アライアンスでは加盟社を挙げた施策を通じ、最終的に東南アジアで循環型経済を築くのが目標だ。
企業にとって商品を売れば終わりという時代は過ぎ去った。東南アジアを世界のごみ捨て場から、ごみ再生の場に変えられるのか。対策を看板倒れにさせない企業の本気度が問われ始めた。