温暖化でスイス氷河が消滅の危機?

ジュネーブ支局 細川倫太郎

スイス

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スイスのアルプスの氷河が危機にひんしている。温暖化によって着々と解けており、最悪のケースでは2100年までにほぼ消滅するとの予測もある。街中では洪水や落石などの自然災害が頻発するなど、市民生活への影響も深刻化している。アルプスを目当てに訪れる観光客は多く、経済に与えるマイナス影響も心配されている。

一体、どのくらい氷河が解けているのか――。8月中旬、スイス南部の雄大なアルプスの山中に広がるローヌ氷河に行ってみた。標高約2300メートルにある氷河で、周辺の空気は薄い。まず目に飛び込んできたのは、氷河が解けてできた大きな氷河湖。解けた大量の水が滝となってごう音をたてながら流れ落ちている。少し歩くと、氷河にたどり着く。驚いたのは氷河を覆っている巨大な断熱シートで、真夏の日差しによる溶解を防ぐために設置しているのだという。

氷河洞窟、滴り落ちる水滴

さらに歩くと氷河をくりぬいた洞窟があり、一歩踏み入れると幻想的な空間が広がる。しかし、ところどころで雨のように水滴が落ち、足元には池のように水がたまっている場所もある。天井を見上げると、ぽっかりと空いた穴も。刻一刻と氷河が解けている様子がうがかえる。「洞窟の中は想像していたよりも寒くなかったわ」。スイス中部ルツェルンから観光で訪れたイーディフさん(35)は言う。ローヌ氷河は夏の暑い日には1日で10センチ後退しており、過去120年間で1300メートル短くなったと言われる。かつては谷の下まで氷河があったが、今はその面影はない。

スイスのアルプスの氷河面積は2017年に計890平方キロメートルとなり、最大だった1850年ごろに比べて半減した。氷河の数も大きく減少している。今夏、欧州は熱波が襲い、一部では最高気温が40度を超え、短期間で相当な氷河が消えたと伝えられている。

2050年までに氷河50%消失も

スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)などの研究チームは今年4月、17~50年に現在のアルプスの氷河の50%がなくなると推計した。ETHZの氷河研究の専門家であるマティアス・フス氏は高水準の温暖化ガスの排出が続けば「2100年までに欧州のアルプスの氷河はほぼ消滅し、標高の高いところに現在の氷河の体積のたった5%程度の氷が散見されるような状況になる」と警鐘を鳴らす。氷河は自然水の貯水池として機能し、水力発電や農業の発展にも欠かせないとし、生態系や経済に重要な役割を果たしていると強調する。水資源の確保など氷河がもたらす恩恵は大きい。

土石流、なだれ、落石・・・・・・。近年、スイスでは急激な氷河の溶解が一因とみられる負の影響が顕在化してきている。7月24日には南部ツェルマットで突然、洪水が発生した。雨も降っていない日に川の水が突如として灰色に変わり、激流が家屋を襲ったのだ。地元テレビ局は「氷河の溶解が引き起こした可能性が高い」と伝えた。8月12日には同じくツェルマット周辺で落石が発生。けが人は出なかったが、道路は一時通行止めになり、列車も運休した。

アルプス観光に影響

名峰マッターホルンのふもとにあるツェルマットは人口約5700人と小さい村ながら、世界有数の高級リゾート地として有名だ。年間宿泊者数は延べ200万人以上に上る。データを駆使したマーケティング戦略や電気自動車(EV)の導入など先端観光地として脚光を浴びている。だが、最近は自然災害によって交通がマヒし、観光客が足止めされるケースも目立つようになってきた。

マッターホルンの入山を禁止すべきではないか」。登山ガイドの間ではこんな意見も出始めている。落石などで登山者が死亡する事故が絶えないためだ。今年に入ってからは既に6人が命を落とした。スイス公共放送のニュースサイト「スイスインフォ」によると、地質学者で自然災害が専門のコイゼン氏は「どんどんと高い地点で永久凍土が解け始めており、高い確率で温暖化が原因」と分析する。マッターホルンが入山できなくなれば、地元経済への打撃は大きい。

各市町村は解ける氷河がもたらす災害対策に必至だ。プライーネ・モルテ氷河では、地元当局が約2億円を投じて氷河に1.3キロメートルの溝を掘る措置を講じた。毎夏、氷河湖の水量が増して決壊し、洪水となって周辺の村に流れ出すリスクが高くなっている。水が一定の高さに到達すると、溝に排水されるようにして洪水を防ぐ。危険箇所や避難ルートが一目で分かるハザードマップや、早期警戒システムを用意する自治体も多い。

「氷河の未来はリスクにさらされているが、消滅を回避できる可能性はまだある」(ETHZの研究チーム)。重要なのは言うまでもなく温暖化ガスの削減だ。スイスのスタートアップ企業、クライムワークス(チューリヒ)は大気中から二酸化炭素(CO2)を回収し、農家の温室などに供給する新技術を開発した。チューリヒ近郊にある商用プラントでは年900トンのCO2を回収できる。スイスの国立公園などでは仮想現実(VR)を使い、子どもたちが直感で氷河の過去と未来を体感できる試みも始まった。氷河の消滅を食い止められるかは各国政府や企業、個人の知恵と行動にかかっている。

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