迫る水産資源の危機 企業・投資家リスク認識を
英シンクタンク創設者に聞く
ESG(環境・社会・企業統治)投資の分野で英金融シンクタンク、カーボン・トラッカーは大きな影響力を持つ。投資家に温暖化に伴うさまざまなリスクを示し、企業との対話や投資に変化をつけることで持続可能な成長をめざす組織だ。
その創設者であるマーク・カンパナーレ氏が森や水、食糧問題などに着目したプラネット・トラッカーを共同で昨年設立。今月にはマルハニチロや三菱商事など日本の水産関連41社とそこに投資する投資家が直面するリスクに焦点をあてた報告書(www.planet‐tracker.orgで英文をダウンロード可能)を公表した。狙いを同氏に聞いた。
――なぜ水産資源を最初のテーマにしたのですか。
「水産物は世界の食糧資源の中で重要な位置を占めるが、天然資源は乱獲などによって危機的な状況にある。こうしたリスクを投資家は十分に認識していない。水産資源はうまく管理すれば回復が可能だ。今回の報告書は資源を持続可能な形で最大限利用していけば、世界の水産業は年510億~830億ドルの追加収益が期待できることを指摘した。逆に問題を放置すれば水産関連企業だけでなく、投資家にもリスクになる」
――日本企業の役割は大きいと考えますか。
「商社や卸企業などを含め、世界で水産物にかかわる売り上げ上位100社のうち、23社を日本企業が占めていた。資源管理は国際的な課題だが、日本企業のリーダーシップに期待している。日本はすぐれた法制度、商慣行も持っている」
――今回のリポートは水産関連企業に厳密な情報開示を求めています。
「企業はいつ、どこで、どのような魚種をどれだけとったかを開示しなければならない。生産・流通管理に加え、子会社の活動、所有船舶などの情報開示も求められる。国際的な漁業認証も取得すべきだ。投資家には企業に対応を求める力がある。それを手助けするのが我々の役目だ」
――金融市場を通じて働きかける理由は?
「長く金融市場に従事してきた経験から、資本の力は大きいと考える。責任ある投資の浸透で年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の影響力が強いのは、1兆ドルを超すお金を動かしているからだ。GPIFをはじめとする日本の投資家は、水産関連企業の有力な投資家でもある」
――カーボン・トラッカーの目的も同じでしょうか。
「気候変動は人類が直面する最大の問題だ。パリ協定のような国際的な取り組みも進んでいるが、そこに化石燃料に関与する具体的な企業名は出てこない。気候変動の問題が広く認識されるようになったにもかかわらず、石炭、石油・ガスの分野には多額の投資が続いた。投資家や金融機関は政治の動きを待たず、すぐに投資撤退などの行動を起こすことができる」
(聞き手は編集委員 志田富雄氏)