日本、米の月探査計画に参加 同床異夢の思惑
政府の宇宙政策委員会は17日、月を周回する宇宙ステーション「ゲートウエー」の建設など国際協力で月を探査する計画へ参加する方針を決めた。近く計画を主導する米国へ正式に参加を表明する。しかし米国と日本では月探査の意義づけにズレが残る。日本はどこまで踏み込んで協力するのか、宇宙開発戦略の確立が求められている。
「早く日本の立場を表明することで貢献のチャンスが増え、信頼関係も深まるだろう」。宇宙政策委員長の葛西敬之JR東海名誉会長はこう説明する。欧州は11月末の閣僚会議で参加方針を正式決定する見通しで、その前に参加表明したい狙いがある。
ただ参加方針の内容を見ると、月探査の位置づけに日米の違いが透けて見える。参加方針では協力項目としてゲートウエーへの技術・機器の提供や物資・燃料補給など4項目をあげた。これらは以前からのゲートウエー建設の議論を踏まえた。
一方で「月探査計画への参画のあり方も含め、国際宇宙探査全体のあり方を検討・整理することが適切」とした。ゲートウエーにとどまらず、米国が新たに打ちだした2024年までに宇宙飛行士を月面に着陸させる「アルテミス計画」を視野に入れたものだ。
月を回るゲートウエーは、地球を回っている国際宇宙ステーション(ISS)と同様に国際協力で建設する計画。日本は欧州とともに居住棟の建設などに参加する方向で協議が進んでいた。
ただ米国が「アルテミス計画」を発表し、ゲートウエーの構想は大きく変化した。24年までに必要最低限の機能を備えた「第1段階」のゲートウエーを建設。「第2段階」では月開発を進め、火星などへ進出する拠点にする。従来、日本が想定していたのは第1段階までだ。
この違いは9月下旬に来日したブライデンスタイン米航空宇宙局(NASA)長官と山川宏・宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事長との共同会見でも表れた。
「目標はあくまでも火星だ」。月探査の目的を聞かれたブライデンスタインNASA長官はこう言い切った。月は火星へのステップというわけだ。一方、山川理事長は「地球に近い宇宙(LEO=地球低軌道)の次のステップが月」と説明。ISSで蓄積した有人宇宙開発技術をいかし、月に活動の場を広げるという認識を示した。
ゲートウエーへの参加自体には、これまでも目立った異論はない。宇宙政策委員長代理の松井孝典・千葉工業大学惑星探査研究センター所長は「今までの国際協力の枠組みを崩してまで日本が離脱する理由はない。国際協調など科学とは別の意義もある」とする。
ただアルテミス計画の全体となると「有人着陸や資源利用といった新しい考え方が入っている。日本としてどう関わるか決めなければならない」(松井氏)。ゲートウエーとアルテミス計画は区別して考えるべきだ、とする意見は根強い。アルテミス計画全体への協力を期待する米国とは温度差があった。
葛西委員長は「参加方針にアルテミス計画を含む」という認識を示した。しかしゲートウエー建設は明確に協力項目を示した一方で、アルテミス計画全体への協力は20年6月をめどに改定する中長期の宇宙開発の戦略をまとめた宇宙基本計画での議論の対象。明確な取り組みをするかの判断は先送りした格好だ。
ゲートウエーに関連して25年以降の運用方針が決まっていないISSの扱いも問題になる。日本は現在、年約400億円をISS関連に投じている。地球上空400キロメートルの軌道を回るISSに比べ、約40万キロメートル離れたゲートウエーは膨大な費用が必要になる。宇宙関連予算が限られるなか、資金配分をどうするか慎重な検討が求められる。
明確な戦略が決まらないまま拙速で参加しても成果が得られるかは疑問だ。宇宙政策委員の中須賀真一東京大学教授は「すべてに関与するととてもお金がかかる。いいかげんな状態で参加すると大変なことになる」と懸念する。
日本は何を目的に月探査に参加し、米国のアルテミス計画にどこまで協力するのか。明確な戦略を持てるかが問われている。
(編集委員 小玉祥司氏、越川智瑛氏)