国際宇宙ステーション、25年以降も運用へ NASA・ISSディレクターに聞く
月を回る有人宇宙ステーションを米国や欧州、日本などが共同で建設する計画が進むなか、もう一つの国際宇宙ステーション(ISS)の行方に関心が集まっている。地球を回る国際拠点として20年近く稼働しているが、運用期間を終える2025年以降の体制は決まっていない。米航空宇宙局(NASA)でISSディレクターを務めるサム・シメミ氏は日本経済新聞の取材に応じて「25年以降も地球低軌道での研究活動を続ける」などと語り、米国が月面探査計画と併せてISSへの関与を続ける姿勢を示した。
ISSは1984年に米レーガン大統領が建設を呼びかけ、欧州やカナダ、日本が参加した。冷戦終結を受けてロシアも加わり、98年に建設が始まった。米国は24年に政府予算を直接投入する現在の運営方式を打ち切り民間移管を進める方針で、25年以降の運営体制は明確になっていない。
シメミ氏は25年以降のISSの運営について「地球低軌道での研究活動を続けていく。米政府としての政策は発表されていないが、来年には発表されると思う」と説明、米国がISSの運用延長を前提に関与を続けるとの見通しを示した。5日に米大使館で開かれた講演会でも「運営は民間でも、米政府はISSの管理者でありつづける」としていた。
ロシアが25年以降単独でも運営を続けると発表しているが「ロシアは意向は発表したが、まだ予算はついていないと思う。参加国が合意してISSをどうするかを決める方向に行くだろう。話し合いをしている」と語った。そのうえで「月や火星に向かう上でもパートナーシップが続くことを期待している」と語り、ISSの国際枠組みが続くことへの期待を示した。
ただ、ISSの運用延長が決まった場合でも、米国は国主導から民間主導へとかかわり方を大きく見直す考えだ。
NASAは6月、20年からISSの商業利用を開始して民間の宇宙飛行士にも開放する方針を発表した。NASAのリソースの5%を民間に提供するとして、ISSへの貨物の打ち上げや有人の滞在にかかる費用などをまとめた価格表も公表した。
荷物の打ち上げは1キログラム当たり3千ドル(約32万円)、民間宇宙飛行士の滞在では食料や空気、生命維持に必要な設備の提供などで1日3万3750ドル(約360万円)などとしている。
価格表は試験的なものだとしたうえで「成約はしていないが、価格表の公表前から個人を宇宙に連れて行きたいという話や商業的活動をしたいという問い合わせが来ている」と民間の関心も高いことを強調した。
「参加国とも協力して商業的な活動を増やそうとしている。政府がISSの多くの顧客のひとつになるというビジョンを持っている」と説明。民間企業のISS利用を促進するために「安全面や技術的な仕様の提供など、主に技術的な支援をしていく」とした。
日本も09年にISSに実験棟「きぼう」を造り、貨物を運ぶ無人輸送機「こうのとり」の打ち上げを開始、今年で10周年を迎えた。「ハード面だけでなく、日本の貢献は本当にすばらしい。全ての参加国にプラスになった。最大の貢献はパートナーシップで、長期にわたる日米関係に貢献した」と高く評価した。
日本国内では、これまで1兆円以上の費用を投じたにもかかわらず、新薬や新素材開発などで目立った成果が出ていない、という批判もある。
シメミ氏は「投資の効果を短期ではかるのは難しい。研究開発は時には20年かかることもある。もっと長期的に見ないといけない」と指摘。NASAが進めるISSの商業利用でも先端素材や医薬品の開発といった需要の喚起を考えているとした。
11日に予定された「こうのとり8号機」を搭載した日本のH2Bロケットの打ち上げが発射台の火災事故で延期されたことについては「ISSの運営に影響はないと思う。H2Bロケットやこうのとりには過去にも技術的なトラブルはあったが、そのたびに乗り越えてきた実績がある」と説明。ただ「1カ月以上打ち上げが遅れることになると、影響を確認しないといけない」とした。
(編集委員 小玉祥司氏、越川智瑛氏)