温暖化対策「米抜き」進む 米、パリ協定離脱通告

一方民間では取り組み加速、逆に日本は再エネ普及に遅れ

米国では再生可能エネルギーの普及が拡大する(米テキサス州)=ロイター

米国では再生可能エネルギーの普及が拡大する(米テキサス州)=ロイター

ブリュッセル=竹内康雄】トランプ米政権は4日、2020年以降の地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」から離脱すると国連に通告した。2020年の米大統領選をにらんだ選挙対策の色彩も強いが、世界は「米国抜き」を見越した体制づくりに動き始めている。日本も対応が遅れれば取り残されかねない。

欧州連合EU)は地球温暖化対策を十分にとらない国に対し輸入関税を引き上げる「国境炭素税」制度を創設する検討に入る。生産過程で温暖化ガスの排出が多い鉄鋼や石油化学の関連製品などが対象になりうる。念頭にあるのは米国やブラジルだ。

EUは50年の温暖化ガス排出を実質ゼロにする方向で加盟国間の調整を進めるが、経済界には「企業の国際競争力の維持に注意を払うべきだ」(ビジネスヨーロッパ)との懸念も強い。EUは米の離脱を織り込んだ上で、規制回避を狙う企業が米に拠点を移転する抜け穴封じを急ぐ。

 

パリ協定はすべての国が温暖化対策に取り組む初めての国際協定として2015年12月に採択され、2016年11月に発効した。スピード発効を主導したのが世界の2大排出国である米中だ。当時のオバマ米大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席の合意が呼び水となり、各国が協定批准に向けて雪崩を打った。

だが、トランプ米大統領は自国の石炭・石油産業への配慮から、就任後の17年6月にパリ協定からの離脱を表明した。米の離脱手続きが完了するのは20年11月4日、次期大統領選の翌日だ。

とはいえトランプ政権が離脱手続きに入っても、米国の温暖化防止の取り組みに当面は大きな影響は出ないとの見方も強い。米企業には「消費者の環境意識の高まりに配慮せざるを得ない」との声が強く、カリフォルニア州など環境規制に熱心な自治体も少なくないためだ。

アマゾン・ドット・コムは9月、2040年までに事業から出る温暖化ガスを実質ゼロにする方針を表明した。目標達成の一環として、電気トラック10万台を配送用に新規購入する。事業活動で使う電力の全量を再生可能エネルギーでまかなうことを目指す企業連合「RE100」にもアップルやウォルマートなど多くの米企業が名を連ねる。

実際、米国では排出の少ないシェールガスや太陽光・風力といった再生可能エネルギーの普及が拡大し、排出量を押し下げている。米エネルギー情報局(EIA)によると、2019、2020年は二酸化炭素(CO2)排出量は前年から減る見通しだ。

環境や社会、企業統治を重視する「ESG投資」など、マネーの流れも環境重視になりつつある。米環境シンクタンク、世界資源研究所のスティアー所長は「米国では州や都市、企業はパリ協定に沿う形で行動している」と話す。

ESG投資 (投資家が、環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)に対する企業の対応を考慮して行う投資)

 

世界最大の排出国である中国も国際世論を無視できなくなっている。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、中国では2018年までの10年間に風力の発電容量が22倍、太陽光は700倍弱に急拡大し、水力を合わせた再生エネで世界の30%と2位の米国(10%)に差をつける。ハイテク産業育成策「中国製造2025」でも再生エネは重点分野の一つだ。

取り残されかねないのが日本だ。小泉進次郎環境相は5日の記者会見で「トランプ大統領に翻意を促してもおそらく不可能だ」としたうえで、引き続き米との協調の余地を探る考えを示した。日本は温暖化ガスを2030年度までに2013年度比26%削減を目指すが、原子力発電所の再稼働が停滞し、再生エネの普及も遅れる現状では達成困難だ。

12月にはスペイン・マドリードで第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)が開かれる。関係者によると、米国の離脱通告は織り込み済みで、各国がパリ協定に明記された目標達成へ努力を続ける意志を示す方向で調整が進む。

ただブラジルなど本音では温暖化対策に積極的でない国もある。中国やインドなど途上国が協定に加わったのも「先進国が温暖化対策を強化する」のが前提だ。米離脱に続く国が出るリスクはゼロではない。

パリ協定は各国が自主的に排出削減目標を定める仕組みだ。協定は産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えるのを目標にするが、現状の各国計画では約3度上昇するとされる。米離脱長期化で温暖化対策への熱が冷めれば、各国は野心の低い目標を設けかねず、実効性も問われる。

南ア猛烈、12年ぶり戴冠 スクラム圧倒、反則誘う

後半、スクラムで押す南アのFW陣

後半、スクラムで押す南アのFW陣

ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会最終日は2日、横浜国際総合競技場で決勝を行い、南アフリカイングランドを32-12で破り、2007年以来3大会ぶりの世界一に輝いた。優勝3度はニュージーランドに並んで最多。

 

南アフリカは1次リーグ初戦でニュージーランドに敗れており、黒星を喫したチームの優勝は第9回の今大会で初めて。初の8強入りを果たした日本を準々決勝で退け、準決勝はウェールズに競り勝つなど立ち直った。

07年大会決勝と同じ顔合わせ。FW戦で優位に立った南アフリカがSOポラードの4PGで前半を12-6で折り返し、後半はマピンピ、コルビの両WTBのトライなどで突き放した。イングランドは03年以来2度目の頂点に届かず、フランスに並んで最多3度目の準優勝に終わった。対戦成績は南アの26勝15敗2分け、W杯では4勝1敗となった。

大会得点王に69得点のポラードが輝き、ウェールズのWTBアダムズが7トライでトライ王となった。

ノーサイドの笛が鳴ると、南アのムタワリラがスキップを踏んでピッチを行進する。両腕はダンスのリズム。この巨漢プロップは試合中も派手に躍動。持ち場のスクラムで試合の流れを決めた。

 

前半のスクラムは全てムタワリラのいる左から崩した。組み合った瞬間にプッシュ。対面した選手の膝が伸び、腰が落ち、力の出ない姿勢にさせると一気に押す。スクラムで得た反則は異例の6度。そのままPGや陣地獲得のキックにつなげた。「セットプレーが大事だと分かっていた」とムタワリラ。やろうとしてもなかなかできはしない。34歳の経験値と衰えぬバネ、そして、集団としてのこだわりもあったから押せたのだろう。

 

近年の南アはボールを動かすスタイルに傾いていた。2018年に就任したエラスムス監督が目指したのは伝統回帰。スクラムのような重さと強さを生かしたプレーだ。

今大会はそのための起用法も貫いた。強みのFWを控えに多く置き、出場時間をやりくりして全員の調子を維持する。「スクラムが良かったのは我々の方が元気な選手が多かったからでは」と監督。相手は開始直後のけが人が痛手となったが、南アは前半で2人が退いても大過はなかった。

後半には流れの中でモールを組み、反則からPGにつなげた。高校ラグビーくらいでしかお目に掛かれぬ力業を準備して使ったところも、このチームらしさ。日本戦と同様のグレーゾーンのプレーもあった。相手のSOフォードらがパスした瞬間、反則気味にタックル。次のプレーを遅らせ、心理的な打撃も与えた。相手は司令塔のミスもあって攻撃が不発だった。

 

3度目の優勝は、いまだ人種問題を抱える国に新たな意味がある。チームを率いるコリシは初めての黒人主将。ムタワリラらの有色人種も過去最多の10人強だった。「南アでは政治的なことや殺人事件などがある。ラグビーを見せることで80分間は皆さんに幸福をもたらしたいと思ってやってきた」と監督は言う。

優勝のメダルを受け取ると、コリシ、ムタワリラらに、白人の監督がシャンパンを掛けて真っ先にじゃれ合い、抱き合った。過去の優勝にも増して、「虹の国」らしい光景だった。

(谷口誠氏)

長期政権の緩み深刻 1週間で2閣僚辞任 人選段階で懸念の声

河井克行法相が31日、辞任した。菅原一秀経済産業相に続き、1週間で閣僚2人が交代する異例の事態だ。他の閣僚の失言も相次いでおり政府・与党では「辞任ドミノ」への警戒が続く。9月の内閣改造は閣僚選びの段階から緊張感に欠ける面があった。長期政権の弛緩(しかん)は深刻だ。

安倍晋三首相は31日朝、首相官邸で河井前法相から辞表を受け取ると、すぐに森雅子氏を呼んで後任に任命すると伝えた。この後、記者団には「任命したのは私だ。責任を痛感している。厳しい批判があることは真摯に受け止めなければならない」と述べた。午前中のうちに皇居での森氏の認証式まで終えた。

河井氏の疑惑は同日発売の週刊文春が報じた。河井氏の妻、案里参院議員の選挙での運動員への法定上限を超す日当の支払いや、選挙区内での贈答品配布の疑惑だ。辞任によるスピード決着は25日の菅原氏と同じで、野党に国会で追及する場を与えなかった。政権へのダメージを最小限に抑える狙いだった。

しかし、わずか1週間というペースで閣僚が連続辞任するのは異例だ。第1次政権では4閣僚が辞任して政権の体力が奪われ、1年程度で退陣した。そのときですら閣僚の辞任には7カ月と1カ月ずつの間隔があった。

14年には当時の小渕優子経産相と松島みどり法相が同じ日に辞任した。首相はその後、衆院解散・総選挙に踏み切り、政権の求心力を高めた。

河井法相の辞任について頭を下げる安倍首相(31日、首相官邸)

河井法相の辞任について頭を下げる安倍首相(31日、首相官邸

今回は新閣僚を選ぶ段階からその質を懸念する声があった。9月の内閣改造では長期政権であるがゆえの「慣れ」が出た。

初入閣は13人に上り、12年12月の第2次安倍内閣発足後で最多だった。河井、菅原両氏も初入閣組で、菅義偉官房長官と近い。「ポスト安倍」候補の菅氏や岸田文雄政調会長、首相を支える麻生太郎副総理・財務相二階俊博幹事長の希望に配慮した人事が目立った。野党からは「突っ込みどころ満載の内閣だ」との指摘が出ていた。

河井、菅原両氏は必ずしも野党側が改造人事で疑問視していた閣僚ではない。現在、野党が照準を定める閣僚もそうだ。萩生田光一文部科学相は20年度から大学入学共通テストに導入する英語民間試験をめぐる「身の丈」発言を陳謝し、撤回した。野党は辞任を要求している。

河野太郎防衛相は「私はよく雨男と言われた。防衛相になってからすでに台風は3つ」と述べ、陳謝した。

第1次政権を含めた首相の通算在職日数は11月19日、戦前の桂太郎の2886日に並んで憲政史上最長になる。野党は国会で共同会派を組んだとはいえ、政権を脅かす存在になっていない。与党内でも「ポスト安倍」候補が次の首相を目指してしのぎを削るような状況にまで至っていない。菅原氏の辞任直後に日本経済新聞が実施した世論調査では内閣支持率は57%と横ばいだった。

それでも首相の悲願である憲法改正に向けた国会論議などへの影響は避けられない。公明党北側一雄副代表は31日の記者会見で、相次ぐ閣僚の辞任について「当然、首相の任命責任はある」と苦言を呈した。

月の南極の氷を探れ NASA、22年に探査車

NASAが2022年に月の南極に送る無人探査車「バイパー」の想像図=NASA提供・共同

NASAが2022年に月の南極に送る無人探査車「バイパー」の想像図=NASA提供・共同

【ワシントン=共同】米航空宇宙局(NASA)は25日、月の南極に存在する氷の分布を調べる無人探査車「バイパー」を2022年に月面に送ると発表した。24年に飛行士の月面着陸を目指す「アルテミス計画」に先立ち、将来の有人探査で飲み水などに利用できる可能性を探る。

バイパーはゴルフカートほどの大きさ。民間企業が開発する輸送手段で22年12月に月の南極に着陸させる。約100日かけて数キロ走行し、センサーで地下に氷がありそうな場所を探す。太陽光の当たり方や温度の異なる数カ所で地中1メートルまでドリルで掘り、土壌を採取して搭載装置で成分を調べる。

月では太陽光が届かないクレーター内などに水が氷の状態で存在するとみられる。飲み水だけでなく、水素と酸素に分解すればロケットの燃料として使える。NASAはどれくらいの水が利用できるか調べる狙いだ。

太古の火星の水「しょっぱい」 金沢大など推定、生命の生存に適す

金沢大の福士圭介准教授と東京工業大の関根康人教授らは米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「キュリオシティ」のデータから、約35億年前の火星に存在した水の成分を推定した。地球の淡水や海水と同じく中性で塩分は海水の3分の1程度、マグネシウムなどのミネラルも多かった。生命の生存に適した水質だったと考えられるという。

ハーバード大物質・材料研究機構との共同研究の成果で、25日付の英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表した。

探査車が訪れた火星赤道付近の「ゲール・クレーター」のデータに注目した。約35億~40億年前の火星には水が存在し、クレーター内部は湖だったと考えられている。

研究チームはクレーターの底にたまった堆積物のデータを分析し、一部の粘土鉱物に残った痕跡から当時の水質を探った。水は中性で、地球の海水の約3分の1だった塩分は「味噌汁やラーメンのスープくらいのしょっぱさ」(関根教授)という。

マグネシウムは海水の6割から海水と同程度、カルシウムは2~4倍程度を含んでいた。モンゴルの塩湖などに近い水質だった。

福士准教授は「火星に水がかつて存在しただけでなく、生命の生存に都合がいい水質だったことを初めて定量的に明らかにできた」と話す。

 

先住民文化、今こそ守る 聖地の登山禁止や入れ墨解禁

シドニー=松本史氏】世界各地で先住民の文化や歴史を尊重する動きが広がっている。オーストラリアは26日から巨岩「ウルル」への登山を禁止し、カナダでは観光を活用して伝統文化を継承・保護している。世界で3億7千万人いる先住民の尊重は国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に盛り込まれ、国の政策や企業経営でも重要度が増している。

豪州にある世界最大級の一枚岩ウルル(英語名エアーズロック)は先住民アボリジニの聖地で、所有権を持つ。かねて登山を控えるよう要請し「非常に重要な場所で、ディズニーランドのようなテーマパークではない」(ウルルの地主の一人でアボリジニのサミー・ウィルソン氏)などと主張してきた。

国内外から年間約37万人(2018年)が訪れるウルルは豪州にとって貴重な観光資源でもあった。議論は長く続いてきたが、26日以降は登山が禁止となる。

ニュージーランド(NZ)では、NZ航空が9月から客室乗務員らのタトゥー(入れ墨)を解禁した。先住民マオリはタトゥーを入れる文化を持つが、同航空は従来は顧客の目に触れないよう求めていた。「従業員が個性や文化を表現する方法」と判断して規則を緩和した。

先住民族の伝統文化

国連によると先住民は世界70カ国以上に暮らす。同化政策や差別にさらされた歴史を持つ民族も多く、言語をはじめ文化の継承は各国の課題だ。

人口の約5%、160万人以上の先住民が住むカナダでは、先住民の文化体験を観光に取り入れる動きが広がる。15年設立のカナダ先住民族ツーリズム協会(ITAC)が旗振り役だ。踊りや工芸品の鑑賞に加え、テント宿泊や犬ぞり体験など本格的なプランも多い。カナダ国内で3万人以上の雇用を生み出す。

ノルウェーの北部のボーデは9月、欧州連合EU)が選ぶ24年の「欧州文化首都」に決まった。様々な文化の催しを集中的に開催する。ボーデには先住民サーミの血を引く住民が多く居住しており、サーミ語の積極的な活用を立候補時に掲げた。

日本では今年4月に「アイヌ新法」が成立した。北海道を中心に居住するアイヌを「先住民族」と初めて明記した。文化伝承や観光を支援する交付金の創設が盛り込まれ、アイヌ文化振興への期待がかかる。

国連は「先住民族は世界のもっとも不利な立場に置かれているグループの一つ」と位置づけている。権利向上の必要性を訴え、15年に採択されたSDGsでも、教育や職業訓練への平等なアクセスなどの項目で先住民族に触れている。

ただ、開発を進める企業や政府と先住民らが対立する事例もある。世界最大級の望遠鏡TMTの建設が予定される米ハワイ島マウナケア山の山頂は先住民の聖地にあたる。7月には大規模な抗議活動があり、建設予定地への道路は封鎖され工事は中断したままだ。TMTには日本の国立天文台も参加する。抗議活動も影響して、稼働は当初の21年度から27年度にずれ込む見通しだ。

南米ペルーでは、政府が資源企業に出した原油や鉱物の採掘許可の取り消しを求め、先住民が少なくとも8件の訴訟を起こしたと報じられている。いずれも先住民の居住地内にあり、判決が出た6件では先住民側の訴えが認められた。

各国で先住民文化の価値を再評価する動きが広がるのは、民主主義や資本主義など「欧米型の価値観を基礎にした近代のあり方が揺らいでいる」(先住民の人権問題に詳しい恵泉女学園大学上村英明教授)こともある。地球温暖化への懸念が強まる中で、先住民が自然と共生する姿勢を評価する見方もある。

ノーベル経済学賞に米大3教授 貧困削減へ効果的介入 解明

黒崎卓 一橋大学教授

ポイント
○社会実験的政策評価の基礎構築で革新性
○インドで500万人以上の小学生が恩恵
○小さな実践的問題の解決を積み上げ成果

2019年のノーベル経済学賞は、米マサチューセッツ工科大(MIT)教授のアビジット・バナジー氏とエステール・デュフロ氏、米ハーバード大教授のマイケル・クレマー氏の3氏に決まった。授賞理由は「世界的な貧困緩和への実験的アプローチ」である。

開発経済学の研究に長く携わる筆者にとって、3氏の切り開いた手法は革新的であり、授賞は驚くべきものではない。ただし授賞のタイミングは予想より早かった。15年の国連総会で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)を30年までに達成するうえで、開発経済学の実践的な革新を評価する機運が選考委員会で高まったのかもしれない。

◇   ◇

一報を聞き、開発経済学におけるRCT革命への授賞だと感じた。RCTは「無作為化比較実験」「ランダム化比較試験」、あるいは「社会実験的政策評価」と表現される。Rは評価したい政策の有無ないしは比較したい複数の政策のどれかをランダムに割り振ることからとった頭文字、Cは結果に影響しそうな諸要因をコントロールした環境を作ることを意味する頭文字、Tはトライアルの頭文字だ。

政策の効果を正しく測るには、医学の新薬試験と同じ方法を使えばよい。新薬の効果を測りたい患者を無作為に「治験群」と「対照群」に割り振り、前者にのみ新薬を施し、2つの患者群の治癒状況に違いが生じるかを統計的に検定する。

これに近い実験を設計するのが、社会科学におけるRCTだ。潜在的な政策介入のターゲットの一部を実験対象とし、治験群と対照群を無作為に割り振り、前者にのみ政策介入を施し後者には実施せず、介入後に経済的な変数に違いが生じるかを統計的に検定する。無作為化が適切なら政策介入の効果が正確にわかる。

RCT自体は、税制や福祉政策の評価のために先進国で1980~90年代に実施された例があり、今回の受賞者の発明品ではない。途上国の貧困削減政策の評価に全面的にRCTアプローチを適用する基礎を作ったところに革新性がある。デュフロ、クレマー両氏らの著書「政策評価のための因果関係の見つけ方」で、RCTを実施するためのノウハウが解説されている。

3氏を中心に多数のRCTが途上国で実施され、貧困削減に有効な介入が次々と明らかになってきた。クレマー氏が分析したケニアでの虫下し薬の児童への配布政策はその代表例だ。

バナジー、デュフロ両氏が中心となり03年、MITにジャミール貧困対策研究室(JPAL)が設置されると、驚くほどの短期間で開発経済学を世界的にリードする組織としての地位を確立した。JPAL発の研究成果は、教育、保健、金融、農業・製造業、環境・エネルギー、ジェンダー汚職・賄賂、犯罪・暴力・内戦など、広範な開発テーマをカバーしている。

図はバナジー、デュフロ両氏が関わったインドでの教育RCTの分析結果だ。非政府組織(NGO)が実施していた習熟度別補習により児童の学力が上昇することを、小規模RCTで確認した後、州政府との共同研究として規模拡大のためのRCTが実施された。

縦棒はパラグラフまたは短い文章が読めた3~5年生の比率を示す。左の黒い縦棒は介入前のスコアだ。無作為化が適切なため、対照群と治験群の間に介入前には全く差がないことから、両群を一緒にした1本の縦棒になっている。

介入後のスコアは同じテストを用いて読解力を測るため、対照群、治験群ともに介入前よりも上昇している。問題は両者の差だ。中央の濃い灰色の縦棒は介入後の対照群のスコア、右側の薄い灰色の縦棒は介入後の治験群のスコアだ。両群の差の有意性を95%水準でチェックするためのひげが治験群の縦棒に加筆されているが、ひげの幅を考慮しても、介入後の治験群のスコアは対照群よりも高い。

図のAはハリヤーナー州で実施された「正規教員による習熟度別補講モデル」の効果を示す。治験群の3~5年生の読解能力向上は対照群に比べ5ポイント高く、その差は統計的にも有意だ。

この補講モデルは、インド全域で10万を超す小学校に導入され、約500万人もの生徒が恩恵を受けた。

ただしインド国内にはウッタル・プラデーシュ州など学校教育環境の劣悪な地域があり、上記モデルの導入が難しい。そこで同州では「ボランティア教員による校内での課外キャンプモデル」が試された。図のBに示すように、この介入は3~5年生の読解能力を25ポイント引き上げ、ハリヤーナー州での対照群に追いつくという大きな効果を持った。インド全域の教育環境劣悪地域にこのモデルが導入され、約4千校、20万人強の受益者を生み出した。

◇   ◇

近年、日本でも「証拠に基づく政策立案」(EBPM)が重視されるようになってきた。RCTによる政策分析は、EBPMに用いられる証拠として最も説得力の高いものといえよう。

くろさき・たかし 64年生まれ。東京大教養卒、スタンフォード大博士。専門は開発経済学、アジア経済論

くろさき・たかし 64年生まれ。東京大教養卒、スタンフォード大博士。専門は開発経済学、アジア経済論

21世紀初頭には、開発経済学の国際会議に参加すると、実証分析はRCT一辺倒の傾向になっており、筆者を含め多くのエコノミストがそれに懐疑的だった。

その理由は、(1)そもそも人間を対象にきちんとした無作為化が可能なのかという技術的問題(外れた人が持つ嫉妬心、当たった人から外れた人へのスピルオーバー=拡散=など)(2)マクロ経済政策や大型インフラプロジェクトなどRCT実施が難しい政策が研究対象外となる恐れ(3)効果を測定することに集中するとその背後にある経済メカニズムへの関心が薄まってしまうという批判――などだ。

しかしその後の研究動向をみると、技術的な面での改善が進んだ。行政改革などそれまで適さないと思われた分野にも工夫してRCTを適用し、情報の非対称性などミクロ経済学的に重要なメカニズムを明らかにするようなRCTも実施されるようになってきた。

とはいえRCTが最も効果的なのは、やはり小さくても実践的な貧困削減政策の評価だ。小さな実践的問題の解決を積み上げていくことの意義については、バナジー、デュフロ両氏の著書「貧乏人の経済学」で分かりやすく説明されている。

3氏の中で筆者が最も多く会ったのはバナジー氏だ。アジア出身者のノーベル経済学賞受賞は、98年のアマルティア・セン氏に次いで2人目。2人ともインド・ベンガル地方出身でコルカタの同じカレッジで学んだ。インドの国際会議にバナジー氏が出席すると、周りに大きな人だかりができ、政策談議に花が咲く。

信用市場や情報の不完全性に関する理論的研究で開発経済学者として名を成したバナジー氏が、RCTの貢献でノーベル賞を受賞するのは不思議に感じる。MITでの教え子だったフランス出身のデュフロ氏の才能を開花させたのも、彼の懐の深さが生み出した取り合わせの妙だろう。デュフロ氏が政策評価の実証研究を極める一方、バナジー氏は今も時折、初期の理論的研究の香りのする論考を発表しているのも印象的だ。

ノーベル物理学賞 現代宇宙論の基礎築く

太陽系外惑星常識超す姿 ビッグバンの名残に根拠

物理学賞は「宇宙の進化と宇宙における地球の位置の理解への貢献」で、欧米の研究者3人が受賞した。

太陽系外惑星

初めて見つかった太陽系外惑星は、それまでの常識を覆すものだった=NASA/JPL-Caltech提供

スイス・ジュネーブ大学のミシェル・マイヨール名誉教授と教え子でもあるジュネーブ大のディディエ・ケロー教授は、太陽以外の恒星を回る太陽系外惑星を1995年に初めて発見した。見つけたのは地球から約50光年離れた「ペガスス座51番星」の周りを回る惑星だ。

太陽系と同じように惑星をもつ恒星は少なくないと考えられていた。しかし世界の天文学者が長年観測しても見つからず、当時の技術で見つけるのは難しいのではないかと思われ始めていた矢先の成果だった。この発見を突破口に、現在までに4000個を超える太陽系外惑星が見つかっている。

発見とともに大きな驚きだったのが、それまでの天文学の常識を超えた惑星の姿だった。公転周期が4日と恒星にごく近い軌道を、木星の半分ほどの大きさのガスでできた巨大惑星が回っていた。

太陽系では太陽に最も近い水星でも公転周期は88日。しかも太陽に近い場所は地球のように岩石でできた惑星で、木星のようにガスでできた惑星はもっと外側の軌道を公転している。太陽系と大きく異なる姿をした惑星の発見は、それまでの太陽系や惑星の生まれる過程についての考え方を見直すきっかけになった。

もう一人の受賞者、米プリンストン大学のジェームズ・ピーブルズ名誉教授は理論面で宇宙の歴史を解明するために大きな貢献をした。

宇宙が「ビッグバン」と呼ばれる大爆発で始まり、銀河などが生まれる過程を研究した。宇宙の95%を「ダークマター」や「ダークエネルギー」と呼ばれる未知の物質やエネルギーが占めるという現代の宇宙論の基礎を築いた先駆者のひとりだ。

代表的な成果は、宇宙の全方向からほぼ均等に届く「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」と呼ばれる電磁波が宇宙の誕生直後に起きたビッグバンの名残である根拠を理論的に示したことだ。

CMBは米AT&Tベル研究所(当時)にいたアーノ・ペンジアス氏とロバート・ウィルソン氏が64年、アンテナの雑音をなくす研究中、偶然に発見した。当時はCMBが本当にビッグバンの名残かどうかは議論が分かれていた。ピーブルズ氏はこの論争の決着に大きな役割を果たし、ペンジアス氏とウィルソン氏は78年にノーベル物理学賞を受賞した。

編集委員 小玉祥司氏)

51 Peg b

51 Peg b は、太陽のような恒星の周りに人類が初めて発見した惑星です。

 この惑星は、木星と同程度の質量をもち、はくちょう座51番星を4日周期で、地球と太陽の距離の0.05倍の距離のところを公転しています。中心星に非常に近いため表面は高温になっていると考えられており、高温の木星の様な惑星という意味で”ホットジュピター”と呼ばれるようになりました。発見当時、このような巨大惑星の存在は想定されていなかったため、惑星を探していた天文学者に大きな衝撃を与えました。

 この惑星を1995年に発見して太陽系外惑星の人類初発見の栄誉を手にしたのは、比較的遅くに参入した、スイスの惑星探しチームのマイヨールとケローズでした。1995年以前にも複数の太陽系外惑星探しの観測チームが存在し、主に視線速度法(恒星の視線方向の速度を精密に観測して惑星を探す方法)と呼ばれる方法で惑星探しが進められていましたが、中心星近くの巨大惑星を想定していなかったため、1995年まで発見することができませんでした。事実、そのような短周期で公転する巨大惑星が存在することがわかってからは巨大惑星発見の報告が続きました。

文責:大宮正士氏(国立天文台

 


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・その他、公序良俗に反し、または管理人・瑚心すくいによって承認すべきでないと認められるもの。


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